【マイルス・ディヴィス】Live Evil アルバムレビュー 考察57 

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Live Evil  概要

1970年 Columbia

2枚組、全8曲入り約104分がんばって聴きなおしましたw。ジャケット・アートにみられるように、ごつい、ごっつ、ごつい作品ですが、肩肘はらずにぜひ、聴いてみてください。もたれるかもしれませんけど・・・。この時期のマイルスの一つの到達点だと思います。

本アルバムの楽曲の構成について・・・

さて、困りました・・・。どのように、どこからお話ししていけばいいのか・・・。非常に難しいw。このアルバムのトラック・ナンバーでまずザクっとご説明しますと・・・

①④⑦⑧=1970年12月 ワシントンDC Cellar Door(クラブ)にて(演奏時間長め)

②③⑤⑥=1970年2月、6月 ニューヨーク Columbiaスタジオにて (演奏時間短め)

ライブ音源とスタジオ音源を組み合わせた、また一つ新しい形態のマイルスとテオ・マセロ(プロデューサー)の作品です。こんな大胆な構成をすることは当時でも今でも稀な発想ですよね。先進的でかつ、一つの挑戦、試みです。演奏時間の長短で、ライブなのか、スタジオなのかを、インデックスを見なくてもだいたいわかります。

クラブCellar Doorについて・・・

「セラー・ドアー」というワシントンDCに1964年~1982年あったクラブで録音されたのが本作のトラック①④⑦⑧となります。

The Cellar Door - Wikipedia

こちらも数々のミュージシャンが録音を残す殿堂だったのですね。このライブ録音のセミ・コンプリート・ボックスが6枚組でリリースされています。その名もThe Cellar Door Sessions。僕は、こちらを実はCDで持っておらず、まだレンタルCDが普通だった頃に借りてスマホに入れてある状態です。

このボックスは、いつでも聴ける状況にあるというだけで、正直、ほとんど聴いておりません。6枚はきついです・・・w。それとボックス・セットで比較しても「プラグド・ニッケル」ほど聴きたい欲が出てきてないんです。一応、下記リンクは貼っておきますけどね。

さて、この6枚組はこのブログでレビューを書くかどうか・・・今のところ、6枚ものライブ・アルバムを書くことは難しいかなあと・・・悩んでおりますw。

ジャケット・アートを眺める・・・Mati Klarwein

作者について・・・

作者はマーティ・クラーワインです。

Mati Klarwein

ビッチズ・ブリュー(1969年)でも紹介しました、マイルスと共同生活をしたこともある、信頼関係のある間柄だったデザイナーです。リンク先の公式ホームページをぜひ、ある程度のスペックの大き目の画面でご覧ください。とても美しいアートに心、奪われることと思います。こちらで直接、僕の書いたマーティのご紹介欄にリンク貼っています。

デザインの由縁 タイトルから

このアルバム・ジャケットに恐怖を感じ、なんでこんなデザインにしたのだろうと不思議に思う人も多いと思います。本作のコンセプトに「相対」とか「二面性」という言葉があると思います。

タイトルLive EvilLiveを反対から表記したことからEvilです。前述のとおり、ライブとスタジオの両方の録音をサンドしたアルバムというとことにもつながります。

そして楽曲タイトルはDISC1の1曲目がSivad、反対から表記してDavis。DISC2の1曲目がSelim、反対から表記してMiles。どちらもMiles Davisの並び替えのタイトルです。両方のディスクの1曲目に自身の名前の反対から並べかえた表記のタイトルというアートがあります。

また、マーティ・クラーワインがジャケットの表面を描き完成した時にマイルスから電話があり、「片方は生命、もう片方は悪の絵がいい」と言われたそうです。

表面は生命「妊婦」を描いていたことから、裏面には「悪」を描いたそうです。さらに、マーティは「J・エドガー・フーバーが表紙の『タイム』誌が(偶然)置いてあって、彼(マイルス)にはフーバーヒキガエルにしか見えないと。

私もマイルズに、『ヒキガエルを見つけた』と言ったんだ。」とのこと。それがこのヒキガエル(らしい)の恐ろしいデザインのアートを生み出したんですね。(情報をくださった僕のTwitterフォロワーのお師匠さん、ありがとうございます!<(_ _)>)

全般に「相対」するものをマイルスは本作に表現しています。

表面のタイトルは
MILES DAVIS LIVE
裏面の表記には SELIM SIVAD EVIL

この表裏のタイトル・ロゴのように、タイトル表記にも一工夫が見られますね。

また、よくマイルスは「オレは双子座だから・・・」ということを言って、自分には「二面性」があることを強調します。「善悪」、「大小」、「優劣」、「上下」、「長短」、「表裏」、「生死」などなど・・・様々な「二面性」「相対」をこのアルバムに表現している、そんなふうに僕は勝手に思っています。

Jimi Hndrix の逝去

この年1970年はマイルスが精力的に様々な試行をライブ、スタジオ問わず、行った年でもありました。そして1970年9月にジミ・ヘンドリックスが亡くなりますわずか28歳の若さでした。

薬物関連の接種過剰であるとされる、彼のあまりにも早い死去にマイルスはショックを受けます。どこかで共演を画策していた最中のことでした。ジミの音のシンボルであるワウ・ペダルが本作でも多く出てくるのはジミの影響も多大でした。

ワウペダル - Wikipedia

楽曲を聴く・・・

まず、このアルバムやこの時期のマイルスはパーソネルや録音日時、場所など、若干情報が錯綜しているとのことです。念のため、お知りおきください。

Sivad を聴く・・・

前述のとおり、Davisの反対表記タイトル。マイルスの作曲。クラブ「セラー・ドア」での1970年12/19の録音。テオ・マセロの編集も各所に聴かれます。「ディレクションズ」「ホンキー・トンク」《「ゲット・アップ・ウィズ・イット」(1970年5/19初録音)》を編集したこの曲を「シヴァッド」とタイトルしました。

新加入なのはベースのマイケル・ヘンダーソン。前述のとおり当時18歳で、マイルスを知らずに育ったミュージシャンとしては初めてのメンバー入りとなります。ワウ・ペダルを用いたマイルスのギター・ライクなプレイが素晴らしい疾走感です。

Little Church を聴く・・・

マイルス作曲で、スタジオ録音されたわずか3分ほどの小品。エルメット・パスコアールの口笛と、マイルスのミュートが聴かせます。この人も僕の老後の楽しみシリーズに入るブラジル音楽の巨匠のようですね。ごつい1曲目から転換した、しっとりコーディネートが抜群です。

エルメート・パスコアール - Wikipedia

Gemini~Double Image (Medley) を聴く・・・

マイルス~ジョー・ザヴィヌル作。5分強のスタジオ録音。どこが2曲間のメドレー部分になるのか、ご存じのかた、ご教授ください。

①Geminiというタイトルの日本クラウンからリリースされているブートレグを改良したと思われるCDが発売されています。クレジット上、「ジェミニ」というタイトルの1曲だけが収録されたパリでのライブ録音とされているアルバムです(訂正:実際はローマでのライブ録音と教えていただきました)。

Bitches Brew ~ Miles Runs The Voodoo Down ~ Agitation ~ I Fall In Love Too Easil ~ Sanctuaryを一気通貫で演奏したライブです。

②Double Imageというタイトルの同じく日本クラウンからリリースされているブートレグを改良したと思われるCDも発売されています。クレジット上、「ダブル・イメージ」というタイトルの1曲だけが収録されたミラノでのライブ録音とされているアルバムです(訂正:実際はローマでのライブ録音と教えていただきました)。

 Free Improvisation ~Round’Midnight~MASQUALEROが一気通貫で演奏されたライブです。

しかし、なんで同じ曲をメドレーにして、別のタイトルをつけるようなややこしいことをするのでしょうか???頭が破裂しそうです!w

これら2枚は一応、ブートレグに近いということで、当ブログではレビューしませんでした。いつか書くかもしれませんが、とくに「ジェミニ」の前半は音が悪すぎるので・・・。ともに1969年の所謂、「ロスト・クインテット」と呼ばれるメンバー構成です。

What I Say を聴く・・・

セラー・ドアーでのライブ録音。一定にひたすら繰り返されるベースラインとリズム。後半のジャック・ディジョネットのロング・ドラム・ソロも圧巻。

Nem Um Talvez を聴く・・・

エルメット・パスコールの作曲。「ネイム・ウーム・タルヴェズ」と読みます。ポルトガル語で「ひとり」という意味だそうで、DISC2の1曲目「セリム」と同じ楽曲です。同じ曲なのに異なるタイトルをつけるマイルスを本当に理解するのには苦労します。前半をしっとりと終焉させます。スタジオ録音です。

Selim を聴く・・・

Milesを反対から表記したタイトル。エルメット・パスコールの作曲。スタジオ録音。DISC1の最後の楽曲「ネイム・ウーム・タルヴェズ」と同じ曲で、でも異なるタイトルの楽曲ですが、まったく同じ音源ではなく、別テイクとなります。後半戦をゆっくりと始めるアーティスティックな1曲。このような構成があるので、本作に関しては2枚を連続して一気通貫で聴くことをおススメします。なかなかできないですけどね・・・。

Funky Tonk を聴く・・・

マイルス作曲。セラー・ドアでのライブ録音をテオ・マセロの編集とともに仕上げた、これが本作の山場でしょうか?「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」でかなりのページで講義されている1曲です。小川隆夫さん「マイルス・デイヴィス大事典」の中でこの曲の解説にLive at the Fillmore East (March 7,1970) It’ About That Timeとの9ヵ月の録音時期の違いによる、サウンドの対比を言及されている注目曲です。

Inamorta And Narrattion by Conrad Robertsを聴く・・・

1970年12月にセラー・ドアーで録音された「ファンキー・トンク」《「ゲット・アップ・ウィズ・イット」(1970年5/19初録音)》より「サンクチュアリ」「ビッチズ・ブリュー」(1969年)より》、「イッツ・アバウト・ザット・タイム」「イン・ア・サイレント・ウェイ」(1969年)より》を編集し、コンラッド・ロバーツという俳優の渋い声のナレーションを入れた楽曲です。

ナレーションといえば、「ア・トリビュート・トゥ・ジャック・ジョンソン」での成功例もありますね。しかし、ゆっくりと、深みのある声で読まれるこのポエムですが、これもマイルス・ミュージックの一翼を担っていると思いませんか?このポエムにたどり着くまで18分ほど・・・。

この1曲のこのヴェルヴェット・ヴォイスの朗読を楽しみにこの二枚組を最初からず~っと聴く・・・なかなかできませんが、もしかするとマイルスがファンに思い描いた、このアルバムの聴き方かもしれませんよ~。知らんけどw。

ロバート・コンラッド - Wikipedia

ナレーションの内容はマイルスの音楽への情熱を語るものです。このメッセージを表現し、相違と創意工夫のアルバムは終わります。

Inamorato 原文はこちら。

イナモラート(イタリア語で「好き」「恋に落ちる」「惚れている」などの意)
ミッションとは音楽、男らしくいること
アートのマスターとは:音楽
描写を決して納得はしてもらえないこの音楽は誰なんだ?
海は描写ができようか?
底知れぬ音楽
全てのものの集まり
永遠に生き続ける
男たちよ、始めよう
イナモラート、あなたの音楽アートは 明日の既知の未知なる生命だ
私は明日を愛している

日本語訳がわかりません。どなたかご教授お願いいたします。ポエムは余計に翻訳が難しくなりますね・・・。随時、ご意見いただきましたら更新していきたいと思っています。

全般をとおして・・・

マイルスの1970年の「バカ負け」した日について・・・

1970年8月、マイルスはワイト島のロック・フェスティヴァルに参加しました。マイルスにとっては「バカ負け」した日と「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」で解説されています。タイニー・ティムジョニ・ミッチェルの間で演奏したそうですが、これが観客ウケが悪かった。

そりゃ、リゾート地のロック・フェスです、ジャズ出身のマイルスはまだまだジミ・ヘンドリックスなどに比べても人気は劣りました。なによりも、ロックの加熱ぶりはもうすごかった。このライブについては高評価のファンもいた一方、観客を無視したただの公開リハーサルといいう評価も少なくはありませんでした。

これを機にマイルスはさらなる変化をしなければならず、「ずっとガキであること」を否定し、大人に成長しなくてはならなくなったと「M/D」では解説されています。

1970年のマイルスとLive Evil をとおして

「ライブ・イヴィル」を聴くと、前述のとおり小川隆夫さんがいうとおり、同じ年の前のライブ(例えばLive at the Fillmore East (March 7,1970) It’ About That Time)と比べても、わずか1年も経過しないうちに、大きなメンバー・チェンジとサウンドの変化が見られます。そして1970年9月のジミ・ヘンドリックスの死・・・。

普段は葬式に参列をすることはないマイルスだったそうですが、ジャッキー・バトル、ベティ・メイブリーとジミの葬式に参列した写真はとても有名な一枚となっています。マイルスのワウ・ペダルの使用には少なからず影響があったのは間違いありません。

共演が叶わなかったのはジミがジャズをやりたがっていたが、マイルスはもうジャズはやりたくなかったからだというのが、現在の定説となっているようです。

本作はマイルス・ミュージックの一つの到達点の一つと僕は考えますテオの編集技術もそうですし、素晴らしいジャケットのアート・ワークもそうですし、「相対」「二面性」というコンセプトも、新しいアルバム全体の構成のしかたも、「マイルス・デイヴィス」という一つのカテゴリーの完成形の一つだと勝手に思います。

マイルス・ファンなら年に1回くらいは、2枚を一気通貫で聴き通しておきたい名作です。

そしていろんな曲が、異なる日時と場所で演奏されたものを編集されて作りあげられているので、たいへん、たいへん、ややこしい・・・。こんな時は小川隆夫さんの「マイルス・デイヴィス大事典」がとっても役に立ちます。

そしてここから、さらにさらにマイルスの変化は続くわけです。目が、耳が、離せません。じっくり、最初から最後まで、聴き通すという贅沢な時間を過ごして、とても有意義に過ごせました。あっという間の休日が終わってしまいましたけどね・・・。

真のマイルス者への道は険しいですw。今夜もありがとうございました。

<(_ _)>

 

 

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