【マイルス・デイヴィス】A Tribute to Jack Johnson アルバムレビュー 考察54

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A Tribute to Jack Johnson 概要

1970年 Columbia

Steve Grossman/ss, Benni Maupin/bcl John MacLaughlin/elg Sonny Sharrock/elg

Herbie Hancosk/key Chick Corea/elp Dave Holland/elb Michael Henderson/elb

Billy Cobham/ds Jack DeJohnette/ds  

「死刑台のエレベーター」(1957年)以来のマイルスのサントラ、と言いたいところですが、実際はそうマイルスが映画制作に携わったという事実はほとんどない

というのも安いギャランティで音楽提供を受けたマイルスは、コロムビア社のプロデューサーのテオ・マセロに、録音してためてある音源を編集、利用させて音楽を映画制作者へ提供させた・・・というのが実情だからです(なぜ安いギャランティで引き受けたかの考察は後述「Yesternowを聴く・・・」の項参照)。

かと言って音楽としては超1級。エレクトリック期がお好きなファンにとってはマイルスのアメリカン・ロックが聴ける超名盤です。

マイルスは寝るときにジャック・ジョンソンの写真を枕元に飾ったというエピソードが「マイルス・デイヴィスの生涯」(ジョン・スウェッド著)で確か書かれていたと思います。マイルスがどんなふうに本作でトリビュートしているか、耳を傾けてみてください。

Jack Johnson という人物について・・・

ジャック・ジョンソンといえば現在はこちらのサーフ・ミュージックのほうが思い浮かぶと思いますが、マイルス者たちにとってボクサージャック・ジョンソンとなります。

テキサス出身の世界ヘビー級王者で伝説のボクサーであり、プレイ・ボーイだったそうです。

ジャック・ジョンソン (ボクサー) - Wikipedia

マイルスはボクシングを趣味としていましたし、プレイ・ボーイという共通項もあり、この映画に賛同をしていて、憧れもあったようです。

Jack Johnson という映画について・・・

「ジャック・ジョンソン」というボクサーの人生を描いたドキュメンタリー映画ですが、YouTubeで見ることができちゃいます。興味あるかたは検索してみてください。映画公開は1971年です。ジャックの声の吹き替えをブロック・ピーターズという俳優が担当しています。

ジャケット・アートを眺める・・・

本作には2種類のアート・ワークが存在します。リリース当初はジャック・ジョンソンが複数の女性(少年も)を従えてオープン・カーに乗っているイラストのものです。

その後マイルスの意向によりマイルスが弓なりのけぞってトランペットをブロウする写真のもの・・・。

マイルスの鍛え上げられた腕っぷしがわかる超かっこいい写真。僕のTwitterフォロワーさまが発信しておられたのですが、このステージで撮影された写真が使われているそうです。

動画の冒頭、ベストをお召しのマイルスですが、すぐにあのジャケット写真のタンクトップ姿になります。かっこいい・・・シビれる・・・。

演奏ももちろんですが、このジャケット写真もクールですよね!僕の持っているコロムビア盤CD表がマイルスの写真、裏がジャック・ジョンソンのイラストになっています。

楽曲を聴く・・・

Right Off を聴く・・・

マイルス作曲。おお・・・往年のアメリカン・ロック・サウンド・・・。

オーバー・ドライブをかけたジョン・マクラフリンのギターとシャッフルのリズムはまさにアメリカン・ロック。これがマイルス???となるかたも多かったでしょう。

しかもたった2曲しか入ってないのかよ・・・と。

でもそんなことはすぐに上回るこのごきげんなサウンド。こうして時系列に聴きなおしてくると、こういう大きな変化もマイルスの音楽人生の一場面だったなと思えます。

かつての少ない音数でのマイルスのトランペットはシンプルでいて効果的でクールです。26分ほどの超大作です。

基本一定のコードの上での進行ですが、音量を抑えてのスティーブ・グロスマンのソプラノ・サックスに転換、久しぶりのハンコックのオルガン(キーボード?)の登場と話題が尽きません。

スティーヴ・グロスマン - Wikipedia

18分30秒ほどからリズム、バッキングが転換しロックとポリリズムの融合。このへんのギター・カッティングはスライ・ストーンの「シング・ア・シンプル・ソング」を模したもの「マイルス・デイヴィス大事典」(小川隆夫さん著)に解説されています。

スライからマイルスが影響を受けていたことがわかりやすいところです。ここまで細かく広く分析されている小川さんはやっぱり、マイルス研究の第一人者です。

さらにもう一度メインのパターンに戻ります。終始主役はマイルスとマクラフリンという感じで最後はフェード・アウト・・・。

Yesternow を聴く・・・

マイルス作曲。こちらも25分ほどの大作ですが、テオの編集が効いている楽曲に仕上がっています。小川隆夫さん著「マイルス・デイヴィス大事典」のこの曲の解説で12分23秒からのマイルスのトランペットについて・・・。「右チャンネルが1969年11月のセッション、左チャンネルが同年2月18日に録音された『シュー/ピースフル』(アルバム『イン・ア・サイレント・ウエイ』)から抜粋」とあります。

様々な編集でつなぎあわせられて佳境へ・・・前述のジャック・ジョンソンの声の吹き替えをブロック・ピーターズという俳優がしている部分が入ってきます。ここがサントラっぽい構成ですね。

“I ‘m Jack Johnson, Heavy weight champion in the world, and black. It never let me forget it.I ‘m black, all right. I’m never let them forget it.”

「オレはジャック・ジョンソン。ヘヴィー級の世界チャンピオンで黒人だ。黒人ということを忘れやしない。オレは黒人だ。ああ、そうさ。やつらにそれを忘れさせないぜ。」

といったところでしょうか。マイルスの黒人差別に対する意識と黒人である誇りから、安いギャランティでもこの音楽提供に賛同したことがこの最後のナレーションに表れているように僕は感じています。

全般をとおして・・・

映画「ジャック・ジョンソン」のサウンド・トラックというよりは、しっかりマイルスの1枚のアメリカン・ロックを取り入れた新しいかたちのアルバムと言えると思われる本作。

エレクトリック・マイルスがお好きなかたにはかかせない、スカッとする名作の中の1枚ですね。「マイルス・デイヴィス自伝」では様々な黒人差別にあった経験も話をしているマイルス。

その一つの反骨表現としての本作でもあります。白人に広く受け入れられてきた「ビッチズ・ブリュー」から発展し次の音楽スタイルへ。

黒人自身もプライドを持つことの表現。黒人にも聴いてもらいたいという願望。

さらに黒人がむしろ音楽的にも成功していることを知らしめるための高レベルな活動の一環だったことがうかがえると思います。

テオ・マセロの編集もマイルスの指示なしでは「仲たがいからの復縁」以降はなかったと言われますから、二人の指向も一致していたと思われ、傑作が生まれたと結論できますね。

もう一つ興味深い考察を「M/Dマイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」よりご紹介します。

二期黄金クインテットと呼ばれるマイルス・バンドのいわゆる、アコースティック期の最後を担った楽団を「ラスト・アコースティック」期と呼ぶとして、「ジャック・ジョンソン」のメンバーを「ジミヘン=マイルス」期と便宜的に呼ぶことに本書ではしています。

「ジミヘン=マイルス」はこの時期のジミ・ヘンドリックスからの多大な影響を受けていたことに由来し、他の通称がつけられていないための名称です。

ベースのマイケル・ヘンダーソンは当時18歳、マイルスを知らないで成長した初めてのメンバーです。

1曲目「ライト・オフ」において、マイルスが変調しようとしているのですが、マイケルは気づかなかったのか、それとも自分を押し通したのか、まったくマイルスに順応することなく、そのまま演奏を続けていることが聴いてとれます。

本書では「トニー・ウィリアムスやハービー・ハンコックといった『なんでもできるソフィスティケイトされた天才』ではなく、マイケル・ヘンダーソンや、のちの懐刀であるピート・コージーのような『それしかできないワイルドな天才(マイルスの過去さえ知らない)』を、ジャズメンと組み合わせることに向かった」と解説しいています。

今昔、関係なくマイルス・バンドは天才楽団にはかわりないのですが、相反する天才の集まりだったと考察しているのが、本作「ジャック・ジョンソン」と、「ショーター四部作」の相違点です。

ちなみに本当に本作がたまらなく大好きなかたはThe Complete Jack Johnson Sessionsなる編集前の全テイクを5枚のCDに収めた変態盤上級者必須盤もあるそうですよ・・・。

Amazonでこれを書いている時点で12800円・・・恐ろしや・・・w。このページの一番下の見えにくいところにリンク貼っておきますね。「マイルスを聴け!Version7」(中山康樹さん著)を読む限りは相当な上級者でないと買う必要はないかと思われます、ハイ。

<(_ _)>

 

 

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