【マイルス・デイヴィス】Bitches Brew アルバムレビュー 考察51 

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Bitches Brew 概要

1969年(CDボーナストラック7曲目のみ1970年) Columbia

Wayne Shorteras
Chick Coreaelp
Joe Zawinulelp
Larry Youngelp
John McLaughlinelg
Benny Maupinbcl
Dave Hollandb
Harvey Brookselb
Jack DeJohnetteds
Lenny Whiteds
Don Aliasper
Jim Rileyper

怒涛のパーソネル・・・。巨匠だらけで且つ、人数もすごいです。

バス・クラリネットが入るわ、かわらず鍵盤x3だわ、2ドラム(ライナー・ノーツには丁寧に左と右にわけて書かれている)だわ、2パーカッションだわ、2ベースだわ・・・

これをマイルスが頭の中で築きあげていた欲しい音を作る構成だったんですね。さすが帝王です。

グラミーを初受賞したアルバムであり、アメリカのゴールド・ディスクにもなっています。

1969年の音楽業界、ぱっと見てみるとキング・クリムゾン「クリムゾン宮殿」、ビートルズはラスト・アルバム「アビー・ロード」レッド・ツェッペリンはファーストセカンドをリリースしているようなところで、伝説の40万人動員の「ウッド・ストック」があった年のグラミーです。

2枚組構成になっていて、アナログ・レコードでも1枚目は両面が1曲ずつという・・・曲も長い長いものとなっています。

前スタジオ録音作「イン・ア・サイレント・ウェイ」から約半年のインターヴァル。その間にライブ・ステージ上でいくつかの曲をメンバーと試験的に既に演奏し、高まったところでのスタジオ録音に至っています。

日本語の読み方について・・・

これまでの僕のブログでも何回かそのタイトルも出てきていました本作。

日本語カタカナ表記ですと『ビッチェズ』ではなく『ビッチズ・ブリュー』が最近のおおかたの読み方のようなので後者を使わせていただきます。

なんだか抵抗のある表記、読み方と思われるかたも多いと思いますし、僕もネット上としてもあまりよい単語ではないか?と思いますが、小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス大事典』でも『ビッチズ・ブリュー』と表記されています。

また高野雲さんのYouTubeでもその辺のお話しをされてますので、以下の動画をご覧ください。

このようなカタカナ表記だけでも1本の動画になってしまうジャズは本当、面倒くさいけど楽しいですね。

僕は今まで『パパ』と呼んでいたのに『父さん』と今日から呼びなさい!って言われているくらい、強烈に『ビッチズ・ブリュー』と読むことに抵抗がありました。w

タイトル名 Bitches Brewとはなんだろう・・・ごめんなさい、わかりません

そもそも『ビッチズ・ブリュー』とはなんでしょう?

以前、ネット上検索するとブリューはあのビールに書かれている単語からと読んだことがありました。マイルスかテオかその他メンバーか・・・忘れましたが、レストランに入ってそこに目がついた言葉をそのままタイトルにしたというエピソードを目にしましたが、その真偽やいかに・・・?残念ながら小川さんマイルス・ディヴィス大事典にも言及はありませんでした。きっとブログ読んでいただいているどなたか、教えてくださいそうな気がしますが・・・。

ジャケット・アート・ワークを眺める・・・

このごついデザイン・・・。

僕はジャズもマイルスも聴いていなかった時期でも、このジャケットは見かけて頭に入ってました。当時は自分がこれを買って聴くとは思いもしませんでした。

Mati Klarwein

マティ・クラーワインというかたの作品だそうです。2002年にお亡くなりになられています。

今回初めてこのかたを知り、ホーム・ページを拝見しましたが、なんと美しいサイトでしょうか・・・。ぜひ、上記リンクをある程度のスペックの画面の大きさのある媒体でご覧ください。この黒人女性の肌の美しさたるや・・・。

決して彼の作品がすべて、『ごっつい』作品ばかりではなく、非常に繊細で見とれてしまうものも多く、たいへん興味を持ちました。電化マイルスのイメージを的確に捉えた作品と言えそうです。

CDジャケットでは感じられないものが迫ってきますし、レコードで手に入れるという、ああ、また物欲が湧いてくるではありませんか・・・。orz

筆者<br>かなやま
筆者
かなやま

マティ・クラーワインの作品は、音楽関連だけでもマイルスの『ライブ・イヴィル』(1970年)や、サンタナ、アース・ウィンド&ファイアなどがあります。多数の傑作を残しています。

2枚組レコードですのでダブル・ジャケット仕様となっていますが、CDも同様、ダブル・ジャケット仕様となっていて、広げてご覧になることをお忘れなく。肌の黒いこれは神なのでしょうか?だけではなく、つながっている2枚目のジャケットでは白い肌の人物も描かれています。抱き合う男女の見つめる海はノアの箱舟を連想させるような気もしますし、女性の黒髪は天高く雲までつながります。絡み合う黒と白の肌の指、悪魔なのか、邪悪を連想させる裏ジャケットの表情・・・。皆さまはなにを思うでしょうか・・・。

書評をそれぞれ読む・・・

中山康樹さん著作より・・・

これだけの世紀の大傑作の本作ですので、僕なんざのレビューよりも、プロの視点をご紹介するほうがよさそうです。

まずはこのブログでは定番の中山康樹さんから・・・

『マイルスを聴け!Version7』です。

中山さんは本作を通常のアルバム・レビューの3枚分の文字数で解説されています。

中山さんは言います。「寅さんの映画みたいなものだ。ここで笑わせるぞ、そろそろホロリときて感動させるぞと、すべてわかりきった展開。これが『わからん』とか『ノレん』とかいう人はもともと感性がないのだ。あるいは、たんなる聴かずぎらい。」と、優しくアドバイスをしてくれているといった印象で、述べられています。

「わかりきった展開」→皆さまもこれくらいの気持ちで本作に耳を傾けておられるでしょうか?もしくはおどろおどろしいこのジャケット・アートに、長時間の曲の数々に、バス・クラリネットの音に、押し寄せる音の数々に、不安を抱きながら聴いておられないでしょうか?

本来は『寅さん』のようにわかりやすい展開なのに、変に斜に構えてしまってませんでしょうか?僕はいまだに毎回『すげ~』とか思いますが、ここまでリラックスして聴けていないような気がして今、またCDを回しながらブログを書いているところです。

しかしまさか、江戸っ子寅さんが、マイルスの解説に登場とは、さすが中山さん・・・w。

さらに中山さんは続けます。

『CD2枚組でちょっと長いが、きょうはこの曲、あしたはあの曲と適当に聴けばいい。』とまで・・・。え!?いいんですか~!?そんなので・・・。

『スピーカーのちょうど間、正面に陣取り、トータルで1時間50分(ボーナス・トラック含む)をDISC1から曲順どおりに!週末の休みに時間も予め確保せねばならん!そこにおんな、こどもが入ってはならん!きちんとここは家族にも前もって・・・』のような、徒労をすることはないとおっしゃっていますw。

な~んだ・・・って思いませんか?

中山さんは『〇曲目の〇分〇〇秒のここがこんなふうに・・・』というように、ポイントを絞っても解説されています。

また中山康樹さんは『マイルス・デイヴィス完全入門』の中で1曲目の『ファラオズ・ダンス』については、これもまた〇分〇〇秒のここが・・・という感じで細かく語っておられます(23ページあたり)。マイルスには二つの側面があり一つは『トランぺッター』としての側面、もう一つは「トータルなグループ表現を創造する『音楽クリエーター』」としての側面があるのが、本作では顕著に表れていると解説されています(138ページあたり)。

このようなことを踏まえてもう一度、『ビッチズ・ブリュー』・・・聴いてみようかな?あるいはサブスクで、YouTubeで検索してみよっかな?と思っていただけるのではないでしょうか?

小川隆夫さん著『マイルス・デイヴィス大事典』を読む・・・

小川さん『マイルス・デイヴィス大事典』の中で、本作は「『キリマンジャロの娘』『イン・ア・サイレント・ウェイ』コンセプトの大半は示されていた」としています。

「2年近くにわたる電気楽器の導入とポリリズムの採用によるマイルス・ミュージックが完全に自立したことを証明するもの」と続けます。

この「ポリリズム」とい音楽用語ですが、面倒くさいのでこのブログではあえて取り上げてきませんでした。簡単にいうと音がそれぞれの演奏者でリズムのズレを生じさせるけど、きちんと最終的にまとまっているみたいな・・・?小川さんの本作の解説の中でポリリズムについて、本来の起源のアフリカを引き合いに出して解説しておられます。

これがなるほど~となります。本作は『リズム』に関してはとくに重要なキーとなっているようです。

小川さん「『ニュー・マイルス・ミュージック』の確立を高々と宣言する1作」ともしています。

そして小川さんは、この大事典の中で全アルバムに言えることですが、1曲ずつ、丁寧に解説をしておられます。どうぞ手に取ってご覧ください。

筆者<br>かなやま
筆者
かなやま

僕がマイルスを聴くうえでおススメしている

小川隆夫さん著『マイルス・デイヴィス大事典』

3ヵ月以上、読んで使い倒してみたレビューはコチラです。

菊地成孔さん大谷能生さん共著 「M/D マイルス・デューイ・ディヴィスⅢ世研究」を読む・・・

久しぶりにこのブログ登場の『M/D マイルス・デューイ・ディヴィスⅢ世研究』

やっぱり、東大での講義は難しいw

講義の中で1曲目『ファラオズ・ダンス』を聴いてから菊地さんは、「『いま聴くと、かなりアコースティックなジャズ・サウンドに聴こえる』という常套句は、90年代にクリシェ(否定的な意味で常套句になること)になったものです。」(452ページ)と述べています。そして、1969年は上記のように既にビートルズは『アビー・ロード』で実質的解散アルバムを出している時代ですし、ロックの世界から見たらマイルスが今からロックに傾倒するというのは『遅きにすぎる』(453ページ)ともおっしゃっています。

ひえ~そうなのか~。帝王すら遅れての電化だったと思うと、その時代も既に時代の流れ、変革というスピードは速くなっていたんだとわかります。

ビートルズの名作「サージェント・ペパーズ~」を引き合いに、『ビッチズ・ブリュー』は語られることがあるそうです。『ビッチズ・ブリュー』『サージェント・ペパーズ~』の類似性です。

しかし、『ビッチズ・ブリュー』は『サージェント・ペパーズ~』からも3年遅れであることにも言及しています。類似しているのは『楽曲のヴァリエーション、コンセプト・アルバム』といった側面だけではなく、『音質、編集感など多岐にわたります』(455ページ)としています。

む~ん、わかるような、全然わからないような・・・。

『マイルス・ディヴィス自伝』を読む・・・

最後の参考書籍としてマイルス自身が語った言葉に耳を傾けてみましょう・・・。「自伝」です。

当時のコロムビア社の社長クライヴ・デイヴィスとはあまりうまくはいってなかった時期だったことが語られています。(361ページあたり)ウッド・ストックでの動員が40万人だったことに象徴されるように、マイルスはジャズでの厳しさをわかっていた中でクライヴ社長との金銭的な不和からモータウンんへの移籍だってちらついたそうです。そしてコロムビアはマイルスを『クラシカル・リスト』『過去の遺物』のような扱いにしていて、新しい音楽はないとされていたことへの不満でした。

『オレの音楽には未来があった。今だって、それにいつだってそうしてきたように、オレはそれに向かって進むつもりだった。~中略~自分のためであり、自分の音楽に必要なもののためだった。進むべき道を変えたかったし、自分の演奏を愛し、信じるためには、どうしても進路を変えなければならなかったんだ。』(362ページ)

これがマイルスの語る、『ビッチズ・ブリュー』録音前の気持ちです。

楽曲の作成過程についても興味深い言及があります・・・。

『二ビートのコードを書き、二ビートの休止にして、一、二、三、ダダン(one,two,three,da-daum)とやる。いいか、そして四拍目にアクセントを置くんだ。最初の小節には、コードが三つあったかもしれない。

とにかくミュージシャンには、思うままに何を演奏しても良いから、今やったように、これだけはコードとして演奏しろと指示した。』(362ページ)

このような指示で生まれたのが『ビッチズ・ブリュー』であるとマイルスは語っています。

『指揮者のように監督し、音楽が発展し、まとまっていくにつれて、その場で誰かに楽譜を書いたり、オレが考えていることを演奏するように指示をし~中略~偶然性に富みながら、音楽の中で起り得る異なった可能性に対して、全員がちゃんと注意を払っていた』(363ページ)

録音テープをテオ・マセロにずっと回し続けさせて、時々メンバーでチェックをしていたことも書かれています。

筆者<br>かなやま
筆者
かなやま

マイルスの使う言葉に『インプロヴィゼーション』(364ページ)という言葉が出てきます。

主に音楽用語で『即興演奏』の意味です。

ここで常に録音状態を維持し、インプロヴィゼーション即興で演奏)を持って、しかしながらメンバーは、音楽の才能であふれる者ばかりですので注意を払いつつチェックしマイルスが新たに指示をだし・・・このような制作行程が『ビッチズ・ブリュー』を完成させたようです。

高野雲さん YouTube解説 『ビッチズ・ブリューぼんやり聴きのすすめ』

今回は他のアルバムと異なり、あまりにも大作すぎますので、自分でいろいろ1曲ずつレビューは困難かと思います。しかし、ここまでだいぶ本作の背景やプロのジャズ評論家の言っていることを引用させてもらい、なんとなくあとは聴いてもらうことが一番かと思います。

前述の中山康樹さんのいうとおり、あまり肩肘を貼らず『寅さん映画』を見るように、素直に楽曲の雰囲気を楽しむのがこの大作の聴き方のようです。

さらに高野雲さんの『ビッチズ・ブリューの聴き方』解説動画がとても親しみやすく、おもしろいのでぜひこちらもご視聴ください。『ビッチズ・ブリューをぼんやり聴いてみよう』という趣旨です。

全般をとおして・・・

『ビッチズ・ブリュー』あなたはどのように聴こえますか?楽しめてますでしょうか?

初めて聴いたばかりの時、ある程度聴いた時、今聴きなおした時・・・それぞれ印象がまったく異なるのではないでしょうか?

最後に僕の私見を言いますと、聴きなおすごとに発見がある魅力的アルバムといったところでしょうか。マティ・クラーワインの公式サイトの美しさにはしばらく見とれましたが、これは新たな発見でした。

今回、ブログを書くにあたり、そういえば中山さん『寅さん映画』で例えていたような聴き方が、しばらくはできてなかったなと思いましたし、DISC2の2曲目『ジョン・マクラフィン』というタイトルの曲で、もちろんギターのジョン中心の曲ではありますが、この曲、DISC1の2曲目『ビッチズ・ブリュー』の録音の断片を編集して作られていることを小川隆夫さん『マイルス・ディヴィス大事典』の楽曲ごとの解説を読んで知りました。

たしかによく聴くと、聴き覚えのあるものが激しいジョンのギターソロの合間や後ろから聴こえてきます。また発見がありました。マイルスのトランペットは入ってないのに、それでもマイルスの音楽としか捉えられません。非常におもしろい発見でした。

ぜひ、マイルスの芳醇な世界の代表である本作、一生をかけて聴き続け、楽しんでいきたいものです。そして皆さまとさらに共有して・・・なんてことができたら、このブログをやっている意味なんて何もありませんでしたが、意義が生まれるかもしれません。

本作はやはり、語るには難しかった~。『寅さん映画』だって本当に好きになると語りだしたら止まらんでしょうね。

ビートルズの『サージェント・ペパーズ~』『寅さん』『ビッチズ・ブリュー』の類似性(痛快!)について、本日は語っておしまいにしたいと思います。

2万字超えるかと思いましたが、楽曲ごとのレビューを省略しましたので、1万4千字以下に抑えられましたw。でも4時間かかっています・・・orz 仕事もこれくらい夢中でやれるようになりたいですw。ありがとうございました!

<(_ _)>

 

 

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