1991年9月28日、マイルス・デイヴィスはカリフォルニア州サンタモニカの病院で息を引き取りました。65歳でした。2026年9月28日で、あれから35年になります。
この記事では、帝王の最期の日々と、彼が遺したものを辿ります。
1991年9月28日に何があったか
その年の夏、マイルスは精力的にステージに立っていました。誰も、本人さえも、それが最後の夏になるとは思っていなかったはずです。9月に入り肺炎で入院、脳卒中を併発し、9月28日の朝に亡くなりました。
訃報は世界を駆けめぐり、ニューヨークの葬儀には音楽界の大物たちが集まりました。ジャズの帝王は、最後まで「現役のミュージシャン」のまま逝ったのです。
正直に告白すると、1991年当時の私は、この訃報の本当の重さをまだ分かっていませんでした。マイルスの音楽を時系列で掘り返すようになったのは後年のこと。ただ、掘れば掘るほど「あの日、ジャズは何を失ったのか」の大きさが、年を追うごとに実感として迫ってきます。この「勝手にマイルス考古学」自体が、あの日置いていかれたファンの、35年がかりの追悼なのかもしれません。
死の2か月前、最後の輝き──モントルーとパリ
亡くなる2か月あまり前の1991年7月、マイルスは二つの「ありえない」ステージに立ちました。
ひとつはモントルー・ジャズ・フェスティバル。クインシー・ジョーンズの指揮のもと、ギル・エヴァンスとの共作時代の曲を再演したのです。「過去は振り返らない」を貫いてきたマイルスが、最後の最後に一度だけ過去と和解した夜でした。
もうひとつはパリ。ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ジョン・マクラフリン──かつての仲間たちが次々とステージに上がる同窓会のようなライブ。まるで別れの挨拶を済ませるかのような2つの夜から、わずか2か月後の死でした。
遺作『Doo-Bop』──未完のまま遺されたアルバム
マイルスの死後、1992年に発表された『Doo-Bop』は、ヒップホップとの融合に挑んだ未完の遺作です。65歳にして、最先端の音に手を伸ばしていた──その事実だけで、マイルスがどういうミュージシャンだったかが分かります。
詳しくはこちらで考察しています → 【マイルス・デイヴィス】Doo-Bop アルバムレビュー
墓石に刻まれた「Solar」の譜面
マイルスはニューヨーク・ブロンクスのウッドローン墓地に眠っています。黒い墓石に刻まれているのは「Solar」の譜面。なぜこの曲だったのか──小川隆夫さんから直接許諾をいただいた現地写真11枚とともに、こちらの記事で考察しています。
→ マイルス・デイヴィスの墓を訪ねて|墓石に刻まれた「Solar」の譜面とWalkin’【写真11枚】
35年経っても聴かれ続ける理由
没後35年。マイルスの音楽は古びるどころか、サブスク時代になって新しいリスナーを増やし続けています。どのアルバムから聴けばいいか迷ったら、当サイトの読者データから生まれたランキングをどうぞ。
追悼の一冊
没後35年のいま、手元に置きたいのが小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス大百科』。全839ページ、帝王の全てが詰まった一冊です。
マイルス・デイヴィス生誕100年(2026年5月26日)に合わせて、待望の新刊が立て続けに登場しました。今回はファン必見の2冊、小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス大百科』と、レコード・コレクターズ増刊『マイルス・デイヴィス・ディスク・ガイド:生誕100周年エディション』を紹介します。
『マイルス・デイヴィス大百科』(小川隆夫・著)
「マイルスに一番近い日本人」こと小川隆夫さんが、これまでに書いてきたマイルス関連の原稿——ライナーノーツ、評論、インタビュー、レビュー——168本を集大成した680ページの一冊です(シンコーミュージック、2026年5月26日発売。まさに生誕100年の誕生日に出ました)。
当ブログでも紹介した全作品解説書『マイルス・デイヴィス大事典』(2021年)の兄弟本という位置づけで、大事典以降にリリースされた作品もカバー。カヴァー・アートワークも大事典と同じく藤岡宇央さんが担当していて、2冊並べて本棚に置きたくなる装丁です。
大事典が「作品を引く事典」だとすれば、大百科は「読み物の集大成」。マイルスと直接交流のあった書き手による一次資料級のテキストがまとめて読めるのは、それだけで価値があります。ちなみに小川さんには、当ブログのマイルスの墓石とSolarの譜面の記事で写真掲載を快諾いただいた恩があります。

『マイルス・デイヴィス・ディスク・ガイド:生誕100周年エディション』
こちらはレコード・コレクターズ6月増刊号(ミュージック・マガジン、2026年6月12日発売、村井康司・監修)。2011年版ディスク・ガイドの復刻に、ブートレグ・シリーズなどその後の未発表音源集、伝記映画・ドキュメンタリーなどの関連作品の記事を大幅追加した264ページです。
オフィシャル・アルバムを録音順に解説し、セッション別ボックスや編集盤も整理。さらに歴代共演者120人の「マイルス的」代表作もセレクトされているので、マイルス本人の80タイトルを聴き終えた後の「次の一枚」探しにも効きます。
当ブログの時系列レビュー(考察1〜81)と同じ「録音順に聴く」アプローチなので、本書を片手に当ブログのレビューを読み比べてもらえたら最高に楽しいはずです。

どちらを買うべき?
役割がきれいに分かれています。
- マイルスを「読みたい」人 → 大百科。インタビューと評論168本は読み物として圧倒的
- マイルスを「聴き進めたい」人 → ディスク・ガイド。未発表音源集まで含めた地図として最新・最強
- 両方欲しい人 → 正解です。生誕100年は一度しか来ません
9月28日には没後35年も控えています。この記念イヤーに、ぜひ手元に置いてみてください。
関連記事:マイルス・デイヴィス生誕100年(2026年)記念まとめ / 人気名盤ランキングTOP5
新刊2冊の詳しいレビューはこちら → マイルス生誕100周年の新刊2冊
おわりに
1991年9月28日から35年。マイルスは死んでなお、私たちに「次はどんな音を聴かせてくれるのか」と思わせる唯一のミュージシャンです。今夜は『Doo-Bop』でも、『Kind of Blue』でも、あなたの一枚を鳴らしてください。

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