Amandla 概要
1988年~1989年 Warner Bros.
『本作がマイルス・デイヴィスの人生最後の作品である』
僕は本作を帝王の最後の作品と捉えています。それはマイルスがスタジオで制作したフル・アルバムとしては最後だから・・・というのもあるのですが、これが全編に渡ってのマイルスのサウンド、ブロウ、意思が行き届いている完成形となるものとして、『聴かせてくれるなぁ・・・マイルスさま』と思わせてくれるからです。
もちろん、公式アルバムとして『ディンゴ』(1990年)『ドゥー・バップ』(1991年)『マイルス・デイヴィス・アンド・クインシー・ジョーンズ・ライヴ・アット・モントルー』(1991年)などがワーナー・ブラザーズからリリースされてはいます。
本当に本当としては『アマンドラ』がラストと位置づけるのは難しいかもしれません。
でも細部にわたり、マイルスの意思を感じさせる・・・
前作までのマーカス・ミラーの超優良一人オーケストラ(誤解を恐れずに言えば『カラオケ』)にマイルスが乗っかっているアルバムとは異質の、本当に素晴らしいサウンドを本作は聴かせてくれます。
過去にマイルスの作曲が1曲もないアルバムや、マイルスのトランペットが全くない曲があっても、それでもマイルスのアルバムだなあと思わせてくれていました。
『TUTU』(1986年)、『シエスタ』は僕にとってはマーカス・ミラーのアルバムとして聴こえてくるのです。
それがいいとか、悪いとかではなく、マイルスの楽曲にはタイトルにはさほどの意味がないように、このアルバムが誰の作品であろうと、マイルスがそこにいて、聴かせて、『ク~ッ、たまらん』となれば、マイルスはそれでOKだったと勝手に思うのです。
プロデュースはトミー・リピューマ と マーカス・ミラーです。
ジャケット・アートを眺める Amandla
本作のジャケット・・・これがマイルスの自画像であることは、本作が最後のマイルスのアルバムと位置づけるにはドラマティックな理由になると思います。
晩年、音楽以上に絵画に傾倒していったマイルスですが、その自画像を取り入れたこのタイミングは、やっぱりなにか、マイルスがアーティストとして、有終の美を飾るがごとく、運命めいたものを感じてしまいます。
その自画像の表情は決してにこやかで優しいものではないのは、マイルスらしいところでもあります。
楽曲を聴く・・・Amandla
本作はマーカス・ミラー、ジョージ・デューク、ジョン・ビグハムというマルチ・ミュージシャン3人がマイルスとともに制作しています。
楽曲はとにかく『聴け!』です。そう、『聴け!繰り返し!』これしかない・・・。
非常に乱暴なレビューになることを承知の上で、あえてこう書かせていただきました。『聴け!』なのです。
いわゆる『遺作』である本作を語ることを誰がいったい、できるだろうか?かの中山康樹さんですら、『マイルスを聴け!Version7』では、楽曲についてほとんど語っていないのです。
本作の背景や、マイルスの心境の変化についての中山さんの仮説や、マイルスの引退について、通常のアルバムの3倍のページを使って語っておられますが、楽曲については語っていないのであります。
マイルス『最後の傑作』・・・中山さんは『マイルス・デイヴィス完全入門』の中でも『マイルス究極の10枚』のうちの1アルバムとして『アマンドラ』を選んでいます。たいへん重く、多義にわたる名作であることを示しています。
と言ってもやはり、マイルス考古学と名乗っておきながら、こんな乱暴なレビューで終わるわけにもいかず、ちょっと僕なりのレビューをしたためます・・・。
①Catembe を聴く・・・
華々しいスタートの楽曲。マーカス・ミラーの作曲で彼らしい曲にマイルスのトランペットが自由に飛び回るごとく。
②Cobraを聴く・・・
ジョージ・デューク作曲。マルチに楽器を操るジョージの作曲にジョージのシンセサイザーとマイルスのトランペット、ケニー・ギャレットのサックスと、贅沢に聴かせる1曲。
③Big Timeを聴く・・・
非常にキャッチーなメイン・テーマのメロディがマーカス・ミラーの作曲を物語る、この時期らしいマイルス・サウンド。なんとマイルスが楽しそうに吹いていることだろう・・・。
④Hannibalを聴く・・・
僕にとっては本作の真骨頂。これが80年代、総決算とでも言おうか、前曲の『ビッグ・タイム』からこの曲へのつなぎは大好きです。なんとドラマティックに盛り上がっていくケニー・ギャレットのアルト・サックスとマイルスのミュート・トランペットの掛け合いには、マーカス・ミラーの作曲能力の高さもおおいに感じられます。
⑤Jo-Joを聴く・・・
これもマーカス・ミラー作曲。ポリリズムをキャッチーに聴かせてくれます。
唄を歌うごとくのメロディはマイルスのトランペットでよりゴージャスに聴こえてきます。よりマーカス・ミラーの作曲能力に感服してしまいます。
⑥Amandlaを聴く・・・
アルバム・タイトル曲『アマンドラ』。非常に抒情的に聴かせるマイルスのミュートですが、次第に感極まるようにドラマティックに編み上げられるようです。
作曲したマーカス・ミラーの端切れよいキーボードもとてもいいです。マイルスのトランペットを引き立てつつ、独自のソロにも耳を奪われるようです。
⑦Jilliを聴く・・・
もう一人のマルチ・タレントのジョン・ビグハムの作曲と演奏が盛り込まれています。ジョン・ビグハムはキーボード、ドラムス、エレキ・ギターでの参加。僕と生まれ年がかなり近づいてきた、1969年生まれのミュージシャンなんですね。若い!
⑧Mr.Pastoriusを聴く・・・
マーカス・ミラー作曲のジャコ・パストリアス(elb)に捧げた楽曲だそうです。ジャコ・パストリアスはこの録音がされた約1年前に亡くなっています。気になるベーシストです。また聴くべきミュージシャンが増えました。
じっくり80年代最後のマイルスのトランペットを聴きましょう。
最後のライブとしては”Live Around The World” を・・・
スタジオで録音されたフル・アルバムとしては最後の本作とすると、ライヴ・レコーディングとしての最後は?と気になると思います。ブートレグを除けばワーナー・ブラザーズから公式リリースされている『ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド』というアルバムがあります。
最後のステージ1981年8月25日、ロスのハリウッド・ボウルという会場で録音された『ハンニバル』が収録されています。
この曲、実は結果的にはラスト・ライヴになったにもかかわらず、編集されてショート・ヴァージョンになっているし、曲も1988年以降に録音された楽曲をいいところどりして、若干、脈略がなくなってしまい、僕はいつでもCDは買えると思って買ってはいません。
あまり重く受け止めていないのですが、それよりやはり、スタジオで制作された『アマンドラ』を繰り返し、聴くことのほうがよほど重要に感じています。そしてこのラストの『ハンニバル』はブートレグ・レーベルのSo Whatからリリースされた“The Last: Complete Version”なるアルバムでフルのロング・ヴァージョンを聴けるそうですので、ご興味があるかたは是非、そちらも・・・。
マイルスの80年代が終わる
僕はいつものようにここ数日、ブログを書くためにも繰り返し、本作をあちこちで聴きなおしました。車の移動中はCDレコを使ってBluetoothで飛ばして移動中も楽しみました。CDレコの便利な機能に『プレイリスト』機能があります。
例えばマイルスの『60年代』『70年代』『80年代』・・・のように年代ごとにプレイリストを作成し、そこに年代ごとのアルバムを仕分けしておきます。そうすると出先でも年代ごとにマイルスを聴くことができたりするのです。
今回も聴いていたら本作『アマンドラ』の最後の1曲『ミスター・パストリアス』が終わると、いつもなら次にリリースされたアルバムが自動的に始まるはずなのですが、今回は始まりません。それはそうなのです。本作がマイルスの80年代最後のアルバムであるから当然です。
しかし、しかしですねぇ・・・
マイルスがこの世を去る1991年までもうすぐ・・・いよいよ『90年代』のプレイリストに入ってしまう・・・。なんだかマイルスがまだこの世にいてくれて、でも死期が近づいているのを確信しているような錯覚に陥りました。
まだまだ続くと思っていたマイルスの芳醇な作品群に終わりが・・・。時系列に聴きなおしてきただけの、なんちゃってジャズ・ファンの僕ですらこんなになるのですから、当時のマイルス・ファンたちは、マイルスの逝去の報に接した際は、どれだけつらかったことだろうと想像します。
中山康樹さんは『マイルス・デイヴィス完全入門』の中で『マイルス究極の10枚』の中に本作『アマンドラ』をはじめ、いわゆるエレクトリック期のマイルスのアルバムを8枚も選んでおられます。
僕は浅はかなマイルス者なので、10枚を選ぶなら断然、アコースティック期からのアルバムが多くなっていまうと思います。
『アマンドラ』の本当の素晴らしさは、中山さんほど僕は理解できていないことは否めません。しかし、いつもこうして聴きなおして思うのは、時系列に聴きなおすと、間違いなくエレクトリック期のマイルスが聴きやすくなっていることは確かなのです。
この時期のライヴとしておススメの動画をご紹介・・・
最晩年のマイルスのライヴとして、僕がおススメする動画がYouTubeにありますのでご紹介します。
この動画のほうが前述の『ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド』よりよほど内容も充実しています。たとえこれが、オーラスのライヴ録音ではなくても・・・。
この動画はおそらく“The Last Supper/ Live At LA Villette 1991”(1991年7月10日録音)なるVoo Doo Down RecordsからリリースされたブートレグにセットになっているDVDーRのものと思われます。
いわゆる『最後の晩餐』と名付けられたこのDVD。本当の本当の最後のステージの約1ヵ月前ではありますが、なにがすごいかって、マイルス門下生の面々が次々と登場するわけです。
過去を決して振り返らない帝王が、かつての生徒たちとともに、とても楽しそうに、まさしく『晩餐会』をするがごとくの模様が映っています。
これだけのメンバーを集めたことがすごい・・・というより、よくマイルスがこんなにたくさんのメンバーともう一度共演をしてやろうと思ったことに驚きます。その楽曲も驚きで、『ヒューマン・ネイチャー』はまだこの時期のかかせないレパートリーだったとしても、アコースティック期の名曲『オール・ブルース』を演奏していたり、ハービー・ハンコックの古い曲『ウォーター・メロン・マン』をやっていたり、『ジャン・ピエール』で晩餐会最後をお祭りのようにやってみたり・・・。
頑固なマイルスがまるで自分の死期が近づいていることを予見しているように、僕たちファンを驚かせるメンバーとセット・リストとなっています。
なんで、チック・コリアが、ハンコックが、ザヴィヌルが・・・一枚のDVDに収録されているのか・・・驚きますが、マイルスはこうして驚かせたかったのかもしれません。
余談ですが、『ウォーター・メロン・マン』を演奏し終えたハンコックの嬉しそうな無邪気な笑顔がかわいくて、見てると幸せになれます♡w。
このブートレグ。本当に危険です。これを購入したら間違いなく、ブートの沼にはまることになるでしょう。このブログも佳境・・・。沼からのレポートをお届けすることになるやもしれませんね・・・w。
かなやま
僕が発売から3ヵ月以上、小川隆夫さん著『マイルス・デイヴィス大事典』を
使い倒した記事はこちらからご覧ください。
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