Get Up With It 概要
1970年~1974年 Columbia
マイルスはこの間、非常に精力的にライブはこなしています(それにより燃え尽きる・・・)。ブートレグではこの期間の録音が多数、残されていて、素晴らしい日本公演もあるようです。中山康樹さん大絶賛です。(例:”Unreachable Station” Mega Disc 1973年6月、東京)
個人的見解というか、このアルバムを初めて聴いたとき、『男は黙ってGet Up With It』と感じましたw。その理由は単純に『超、かっこいいな~』でした。
1曲目がデューク・エリントンへの鎮魂歌なんてことを知ったのは、このアルバムを買ってからしばらくしてから・・・中山康樹さんの『マイルスを聴け!Version7』を手に入れて読んだときでした。
かっこいいと感じたのは、マイルスのドアップだけのシンプルなジャケット写真が関係していたかもしれません。
よくわからないですがすごく大切に聴きたいアルバムだと思いました。ですので今回のブログはいつもに増して、丁寧に、書いていきたいと思います。
ジャケット・アートを眺める・・・Get Up With It
本記事の一番うえに示したのはCDの販売リンクですが、次にアナログLPのジャケットを示すためにレコード版のリンクをご紹介します。
おわかりでしょうか?
CD版とは異なりアナログ版は右上にタイトルとマイルスの名前の文字が一切、ありません。帝王の顔のみの写真。しかもドアップ。
中山康樹さんは『マイルスを聴け!Version7』では中山さんは『このカッコよさ、わかるかなあ』と読者に問いかけます。でかい透明のサングラスが帝王にとてもお似合いです。
こちらは僕がフォローさせていただいているかたのTwitter画像を拝借しました。確かに文字一切ないジャケットはかっこよさ倍増です。
画像のご提供、ありがとうございます。<(_ _)>
参加ミュージシャンについて・・・Get Up With It
録音された日に4年ほどの開きがありますので、パーソネルの記述はなかなか難しいですので割愛します。が、特筆すべきはアル・フォスター(ds)が⑥『レッド・チャイナ・ブルーズ』で初めてマイルスと共演し、アルは一時引退→復活するマイルスを長期に支えることになります。
楽曲を聴く・・・Get Up With It
ライブの1セット=1トラックとか、題名が全然違うようになっているアルバムではなく、1曲ずつタイトルとトラックがしめされているので、久しぶりに各曲について書いてみます。なお、すべての楽曲がマイルスの作曲です。
He Loved Him Madly を聴く・・・
前述のとおり、デューク・エリントンの逝去に伴い、マイルスがすぐに作曲にとりかかりレコーディングした鎮魂歌です。
再度となりますが、デューク逝去が5/24、録音が6/19、本作リリースが11/22と急ピッチに行われました。
32分を超える大作は、マイルスのトランペットの登場は26分30秒あたりからで、わずかです。
淡々とくりかえされる悲壮感の漂う進行に、ギターやフルートのメイン・メロディなどさまざまです。
僕はこの曲、なぜ“him”で”himself”ではないのだろう?と疑問を持っていました。
今回、小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス大事典』のこの曲の解説を読んだところ、『デューク・エリントンの口ぐせである“Love you madly”をもじったもの』とあります。これで一つ、謎が解けました。”himself”にしてしまっては、デューク・エリントンの口ぐせから離れてしまいますもんね。
小川さん、素敵な大事典をありがとうございます!!
Maiyshaを聴く・・・
本作リリース前に録音された当時の新曲。
『エムトゥーメとともに、70年代に残された最後のスタジオ録音』と小川さんの前述の大事典には解説があります。
ああ、マイルスの長期離脱の時期が近づいてまいりましたね。オルガンはマイルスが演奏しています。
Honky Tonk を聴く・・・
本作で最も初期に録音された楽曲。
小川さんの大事典によるとチック・コリアとキース・ジャレットのツイン鍵盤体制になったのがこの録音の1970年5月~だそうです。
『セラー・ドアー・セッションズ』や『ライブ・イヴィル』の『シヴァッド』の一部でも聴かれる、既にCDではお馴染みになっています。
Rated X を聴く・・・
マイルスはオルガンを演奏。
おどろ、おどろしい曲調にマイルスの影の面を見るような、かつ男のダンディズムを表現していると僕は思います。
この激しいポリリズム・・・。『マイルス・デイヴィス・イン・コンサート』でも既に聴いているこちらもお馴染み。タテノリ、ドラム&ビート・・・。
Calypso Frelimo を聴く・・・
これまた32分以上の大作。マイルスはオルガンとトランペットの両方で登場。
10分過ぎからのベースのラインが僕の世代の人には『スーパー・マリオ・ブラザーズ』の地下ステージの音楽に聴こえるのは間違いない!任天堂はこれを元ネタにしているに違いない!と僕は勝手に思っていますwww。
まじめなレビューは小川さんや中山さんの書籍をご覧くださいwww。
約半年後のカーネギー・ホールでの録音の『ダーク・メイガス』でも既に当ブログお読みのかたは、聴いてきましたね。
ちなみに『カリプソ』とはカリブ音楽の一種ですね。こちらのリンクをご参照ください。マイルスは本当に、いろんなことをやってみてます。
Red China Blues を聴く・・・
アル・フォスターとの最初のマイルスの共演作がこの楽曲となります。
マイルスのブルース・スタイルの楽曲は久しぶりに聴きますね。いわゆる、アコースティック期以来でしょう。
ブルース・ハープが中心になるこの奏者はウォーリー・チェンバースという人。
おそらくマイルスの楽曲にブルース・ハープが登場するのはこの楽曲のみだと思います(違ったら教えてください<(_ _)>)。
Mtume を聴く・・・
この楽曲も②『メイーシャ』同様、70年代に残された最後のスタジオ録音。
強烈なポリリズムに頭がおかしくなりそうですw。さすがエムトゥーメ(per)の名前を冠しているだけはあります。
Billy Preston を聴く・・・
ビートルズとの共演で名前が知られるビリー・プレストンをそのままタイトルにした楽曲。小川さんの大事典ですら???マークなのですが、マイルスとビリー・プレストンの関係はまったく見られず謎なのだそうです。
なんでビリー・プレストンの名前をタイトルにしたのか・・・なにかリスペクトなりはあったのかとは思われます。
マイルスはトランペットとオルガンを演奏しています。
Get Up With It をどの時期にとりあげるかに、悩みました・・・本作の前後を年表で追います
前述のとおり、なんでかこのアルバムは僕にとっては大切なアルバムの位置づけ。
ですのでだいたい時系列に書いていくのを基本としている当ブログですが、本作は4年間の中での未発表曲集ですし、どのような順番で記事を作るか…非常に悩みました。
本作のうちの何曲かは、既にライブ・アルバムで演奏されているからもあります。
結局は中山康樹さんの『マイルスを聴け!Version7』のとりあげた順番に準じる形で書いてきましたが、小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス大事典』では『ブラック・ビューティ』と『マイルス・デイヴィス・アット・フィルモア』の間に本作を紹介しています。
日付 | 本作に関わる主なできごと |
1970.5.19 | ③Honky Tonkスタジオ録音 |
1970.6.17.~20. | Miles Davis At Fillmoreライブ録音 |
1970.12.17~19 | Cellar Door Sessions (ワシントンDC) Honky Tonkライブ録音 |
1971.11.17. | Live Evil リリース Sivadの途中は③Honky Tonkとほぼ同じ |
1972.3.9. | ⑥Red China Bluesスタジオ録音 |
1972.6月~7月 | On The Cornerスタジオ録音 |
1972.9.6. | ④Rated X スタジオ録音 |
1972.9.29. | Miles Davis In Concert (N.Y.Phillharmonic Hall) Rated X, Honky Tonkライブ録音 |
1972.12.8. | ⑧Billy Preston スタジオ録音 |
1973.9.17. | ⑤Calypso Frelimo スタジオ録音 |
1974.3.30. | Dark Magus(N.Y. Carnegie Hall) Calypso Frelimoライブ録音 |
1974.5.24. | デューク・エリントン逝去 |
1974.6.19. | ①He Loved Him Madly スタジオ録音 |
1974.10.7. | ②Maiysha⑦Mtume スタジオ録音 |
1974.11.22. | Get Up With It リリース |
上記の表は本作に関する出来事を時系列にあらわした表です。
見ていただくとわかりますが、③Honky Tonk、④Rated X、 ⑤Calypso Frelimoは、レコード化される前にライブで演奏されていたということになります(ですのでブログで取り上げる順番を悩みました)。
ざっくり僕が気づいたところだけの表記となっていますのでご了承ください(他にも追記しますので、お気づきのことがあればお知らせください)。
デューク・エリントンの逝去からリリースまで急ピッチだったことがわかります。
マイルスのその時代ごとの指標にもなるいくつかのアルバムのうちの1つである『オン・ザ・コーナー』の前後の時期に、本作の楽曲がレコーディングされていたこともわかります。
全般をとおして・・・Get Up With It
ここで小川隆夫さん著『マイルス・デイヴィス大事典』の本作の解説を引用します。
マイルス自身の音楽的変遷を眺めると、70年に録音された〈ホンキー・トンク〉と72年録音の〈レイテッドX〉および〈ビリー・プレストン〉との間には大きな質的差異が認められる。それは、前者がいまだジャズ的アブストラクトの中に身を置くことでマイルスがイメージを発展させていたのに対し、後者は肉体的エネルギーを音楽的に変換させることで、自己のエモーションを音化していた
小川隆夫さん著『マイルス・デイヴィス大事典』199ページ
録音時期に4年もの開きのある本作の楽曲の時間差・・・マイルスがこの時期に目まぐるしく変化したことを伝えるアルバムとなっているということです。
32小節の循環のようなジャズの定型からは既に離れてきた1970年頃でしたが、1974年にはそれがもっと加速して、小節は無限にマイルスが言うまで継続され、テンポすら変化し、拍子も激しく変化する・・・これはマイルスがそれまでの薬物依存や事故などからくる体調不良の期間にシュトックハウゼンをよく聴いて、多大な影響を受けていたことにも起因すると思われます。
もう何にも縛られることなく、『自己のエモーション』でプレイするようになる過渡期を知れる、名盤中の名盤と思われます。
このアルバムのオチは、やっぱり冒頭に書いた『男は黙ってGet Up With It』。僕の個人的見解は、本作は『男のダンディズム』だと思います。
マイルスとデューク・エリントンとの男同士の、共演はなくてもつながるものがあります。
マイルスにとってデュークはアイドルだったと想像します(そのようなことをインタビュー書籍で読んだ記憶があります)。
だってどれもこれも男前な楽曲ばかりだと思いませんか?男よ!ゲット・アップしよう!(変な意味ではなくwww)
「キミが『ゲット・アップ・ウィズ・イット』が好きか否か、理解できるか否か」。これに対して「好き」あるいは「理解できる」とこたえた人こそ、真のマイルス・ファンであり、最上のマイルス理解者なのだ。「オレさあ、『マイ・ファニー・バレンタイン』が好きでさあ」などと言っているようではまだまだ。それではそこらの”モーニンおっさん”と変わらない。僕がいっているのは、『オン・ザ・コーナー』のようなたぐいの過激な音楽のことではない。この『ゲット・アップ・ウィズ・イット』をただありのまま受け入れる感性があるかないか、えっ、どっちなんだということである。
中山康樹さん著『マイルスを聴け!Version7』双葉社 199ページ
最初にこの中山さんの解説を読んだとき、僕自身は、本作を「理解」はできてないとは思うのですが、『好き』は高らかに宣言できていました。かっこいいし、ここちよいし、繰り返し聴ける。
確かになにか『過激な』ところはないのに、なんでだろう・・・この魅力って。
毎回聴くたびに、この中山さんからの『えっ、どっちなんだ』?を思い出しながら、自問自答するように本作を聴きます。
そして今回はこうしてブログに書きたくて、書きたくて、止められない自分にまで発展しました。あなたにとっては、本作はどんなアルバムですか?
最後に高野雲さんのYouTubeチャンネルでも本作のレビューを楽しく聞けますので、リンクをリンクを張っておきます。
高野さんも同じ文に感銘をうけて引用なさっていると思われるので、ご紹介します。
この動画の23分あたりから本作『ゲット・アップ・ウィズ・イット』についてお話しされています。そのほかの時間帯のマイルス談義や音楽談義も、とても楽しいですよ。
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