【マイルス・デイヴィス】On The Corner アルバムレビュー 考察59 

【PR】この記事には広告を含む場合があります

スポンサーリンク

On The Corner 概要

1972年 Columbia

どこにも分類して押し込むことができないものだ。なんて呼んでいいかわからなくて、ファンクと思っていた連中がほとんどだったけどな。~中略~あの音楽の基本は、空間の扱いかたにあって、ベース・ラインのバンプと核になっているリズムに対する、音楽的なアイデアの自由な関連づけがポイントだった

「マイルス・デイヴィス自伝」391ページ

マイルスが語った本名作「オン・ザ・コーナー」について語ったこれで、ハイ今回は終了~みんなそれぞれ聴いて、感じて、楽しんでくださいね~・・・でいいような気もしますが、なにかと文章を書きたい僕は、性懲りもなくまた、書き綴りたいと思いますw。

時は流れて1972年6月、7月にこのアルバムはニューヨークの拠点、コロムビア・スタジオで録音されました。前ライブ・アルバムが収録された「セラー・ドアー・セッション」が1970年12月でしたから1年半ほどが経過しての録音となりました。

しかもスタジオ録音としては1970年2月、4月録音「ジャック・ジョンソン」以来となりました。長期に渡ってレコーディングから遠ざかったマイルス。

1970年はたくさんの録音、ライブをやっていたのになんの空白なのか?それはこの「オン・ザ・コーナー」への大きな変化への準備だったのでしょう。そして1975年からのマイルスの長期休養に入る前としては、本作が最後のスタジオ録音となります。

中山康樹さんの著書「マイルス・デイヴィス完全入門」では「若い世代やクラバーたちのあいだでバイブルとして熱狂的に支持されているCDです」と解説されています。2001年のクラブ・シーンでは人気だったようです。マイルスの死後に人気が本格的になった作品と言っていいでしょう。

この混沌とした音圧に、初めて聴いたときは「なんじゃ?こりゃ?」でした。でも聴けば聴くほどマイルスの変化が楽しめる名作なんですよね。

好きです。あらためて上記、引用を読んでからまた本作を聴くと、聴こえ方がかわってくるんではないでしょうか?

注目メンバー① Michael Henderson・・・小川隆夫さんの著作より On The Corner

かなりのサウンドとコンセプトが変化した本作にはメンバーの変化も大きな影響を与えています。マイルス、ジャズ評論家のかたのご意見をうかがってみたいと思います。

まずは小川隆夫さん「マイルス・デイヴィス大事典」より。ベースがマイケル・ヘンダーソンに代わりました。

マイケル・ヘンダーソン - Wikipedia

デイヴ・ホランドの直線的なベースから、リズムに重点を持っていくマイケル・ヘンダーソンは、よりファンキーな路線を追及できたのかもしれませんね。小川さんは本作を「ブラック・ファンクの粘るビートとエスニックな香りがするポリリズムの複合。

~中略~その最大の功労者がヘンダーソンだ」と高く評価しておられます。さらに続けられます・・・「持ち味は、一定のベース・パターンを繰り返し演奏することにより、独自のドライヴ感と躍動的なリズム・フィギュアを作り上げること」

さすが、適格な聴きどころを僕たちに教えてくださっていて、感心しかないです。僕も大好きスティーヴィー・ワンダーなどのバック・バンドもやっていたそうですから、すごいベーシストですね。

ベースに注目して聴いてみてください。ちなみに中山康樹さんも著書「マイルス・デイヴィス完全入門」で、マイルス・バンドのベスト・ベーシストに選んでおられます。

 

注目メンバー② Dave Liebman・・・中山康樹さんの著作より On The Corner

続いて中山康樹さんの「マイルス・デイヴィス完全入門」を引き続き取り上げます。中山さんはソプラノ・サックスで1曲目のみにしか本作には参加していませんが、デイヴ・リーブマンを推しています。

デイヴ・リーブマン - Wikipedia

1970年代の電化マイルスを語るうえでは、かかせないサックス奏者でマイルスの日本公演にも帯同し、今後このブログでも取り上げる予定の「ゲット・アップ・ウィズ・イット」(1970~1974年)「ダーク・メイガス」(1974年)でも聴くことができますが、あまり公式盤としては、録音が残っていないようです。

1曲目「オン・ザ・コーナー・・・」の録音の際のエピソードを同書では記述されていますが、テオ・マセロ(プロデューサー)から電話がかかってきて、マイルスのレコーディング途中から、デイヴは参加しました。

その「途中から」というところが、本当に飛び入り的だったそうで、まさに演奏が進行している、レコーディング中のスタジオの中に入ってきて「吹け」とマイルスに合図をされたそうです。ヘッド・フォンもなしでいきなり入り、直接、デイヴの耳に入ってくる音はドラムスと打楽器、それにキーボードのたまに聴こえるノイズだけ・・・曲のキーもわからないまま、デイヴが吹いてレコーディングされたのが、本作1曲目の「オン・ザ・コーナー・・・」なのだそうです。

そう言われて聴いてみると、確かにソプラノ・サックスが手探り感がするような気もしますね・・・。そんなスリリングな、まさに「インプロヴィゼーション」(即興音楽)をハラハラして楽しんでください。

「マイルスに怒られないかな~」って心配もしながらだったであろうデイヴの気持ちを想像して聴いてみましょうw。巨匠たちの音楽はすごいです。

高野雲さんも以下の動画で、デイヴについて言及されていて、高評価されています。

ちなみにこの即興性からもわかるとおり、この録音には22人が参加した説もあるようですが、定かではなく、正確なパーソネルは不明だそうです。

それにハービー・ハンコックが呼び戻されているところも注目ですね。これだけ音が混沌としているので、どれがハンコックか、わかりにくいですが、そのまま聴いて楽しめばいいアルバムだと思います。

いいんです、混沌としいていて、それが文句なしのかっこよさですから・・・。あえてマイルスは記録をしっかりとは残さなかったという説もあります。

ジャケット・アートを眺める・・・On The Corner

Corky McCoyというデザイナーの作品です。1967~1968年の未発表曲集を集めた密かな名盤ウォーター・ベイビーズ」のジャケット・アートでも登場しました。

Corky McCoy - Wikipedia

僕はこのジャケットを眺めると、いろんなものが見えたり、感じられます。ブラック、黒人、黒を引き立てて映えさせる黄色のバック、アフロ、R&B、ジャズ・ファンク、フュージョン、ロック、ヒッピー、若者、ファッション、喧噪、エスニック、インド、金欠w、談笑、溢れる音楽・・・まさに「混沌」

楽曲と同じでいろんなものが一気に押し寄せる混沌とした感じが、このポップ・アートにも見られてかっこいいと感じます。

あまりノリ気じゃなかったコロムビア社・・・On The Corner

マイルスがこの時期に影響を受けていたのはスライ・ストーンジェームス・ブラウンでした。もろにそれを隠さず、素直に表現していくマイルス。さらにトランぺッターとしてのポジションからますます離れて、音楽クリエイターになっていくように見えます。

その証拠に非常にマイルスのソロが少ないですし、マイルス以外のミュージシャンのソロというソロもはっきりしていないというか、ソロをとるという形態をとる必要のない音楽になっているのも、本作からの大きな変化です。

ただし、それは当時の世間には、なかなか理解されるものではなかったようです。コロムビアもたくさん売れるのはやはりロックだと考えました。

しかもケタ違いに売れるわけです。なかなかマイルスのレコードへのプロモーションには歴然とした差をもって、ロックに力が入っていたようです。

前述のとおり、マイルスの死後に、本作はクラブ・シーンにおいて再評価され、世間に広まったアルバムなのです。

楽曲を聴く・・・On The Corner

本作の4曲、すべてがマイルスの作曲です。1曲ずつ簡単ですが聴いてみましょう。

On The Corner~New York Girl~Thinkin’ One Thing And Doin’ Another~Vote For Miles を聴く・・・

4つのセクションにわかれるこの曲。冒頭の部分がアルバム・タイトル曲の「オン・ザ・コーナー」です。どこから次のセクションになるか、小川隆夫さんの「マイルス・デイヴィス大事典」ではきちんと解説されています。

是非、手に取ってご覧ください。前述の「注目メンバー②Dave Liebmann~」の項で書きましたが、デイヴ・リーブマンがいきなり演奏中、しかも本番録音中のスタジオに入ってソプラノ・サックスを吹かされた緊張の演奏が冒頭です。

Black Satin を聴く・・・

シタールが冒頭から聴こえてくる、これも混沌を作り出す1曲。「ビッチズ・ブリュー」でもあった鈴の印象的な音や、ハンド・クラップがまた効果的で、マイルスの自伝の引用にあったように「リズムに対する、音楽的なアイデアの自由な関連づけ」「ポリリズム」が、また新しいです。

One And One を聴く・・・

これはベースにもワウ・ペダルが使われた、鈴のリズム感を楽しめる楽曲。これもあえて、ソプラノ・サックスの先行はあるものの、マイルスのトランペットはほぼ、聴こえてないと思われます。

Helen Butte ~ Mr.Freedom X を聴く・・・

前曲、「ワン・アンド・ワン」と同様のリズムとベース・ラインを用いた楽曲です。やはりマイルスのトランペットがわずかに顔を出すという、決してブロウはしない感じ。3人の鍵盤の振り分けが左右、中央とのチャンネルにわけられているそうで、そのへんも「マイルス・デイヴィス大事典」をどうぞご覧ください。

曲調もかわってメドレーされる「ミスター・フリーダム・エックス」ですが、エレクトリック・シタールが使われてインド音楽を彷彿とさせます。これまた混沌・・・。

全般をとおして・・・On The Corner

また新たなステージに立った印象の本作。マイルスの別のスタイルが打ち出されて、世間は置いてけぼりを喰らう・・・。帝王の亡きあとに世間が気づく名作・・・。それもドラマティックだと思います。物語があるなあと思います。

個人的にはず~っと繰り返し聴いてきたアルバムでは決してないので、本当に好きな方とは視点(聴点?)もかなり異なると思います。

ですが、マイルスの時代がこういう音になってきたのが、なんだか以前よりは理解ができる、単なる思い付きのレコーディングではなく、綿密に計画されたものであったろうことは、なんとなくここ5回くらい聴いてきて感じられます。

どこがどうとか、説明は難しい。でもこの「混沌」をぜひ、拒否しないで楽しんで聴いてみることが、マイルスの人生を知る上でも重要かと思います。完全電化したマイルスのここからの時代も楽しみです。

 

 

コメント