【マイルス・デイヴィス】You’re Under Arreast アルバムレビュー 考察69

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You’re Under Arreast 概要

1984~1985年 Columbia

80年代も後半に入ってきました。いよいよ帝王の晩年にさしかかってきました。

そして80年代はまだバブル崩壊以前の時代。サウンドも景気もよいというか、この時期特有というか、今日より明日は必ず成長していく・・・そんな時代はマイルスのように次々に変革を求めるにはよい時代。

リスクをとって新たなことに挑戦するべき時代だったのかもしれません。

ざっくり、参加ミュージシャンについて・・・

サックス奏者のビル・エヴァンスにかわって、ボブ・バーグがここから3年ほどマイルスと帯同します。

ジョン・マクラフリン(g)が12年ぶりに、マイルスと録音をしました。

アル・フォスター(ds)とヴィンス・ウィルバーン(ds)の二人が日によって録音に参加しています。

スティングが歌を歌うわけでも、楽器を演奏するわけでもなく、被疑者役のマイルスを逮捕するポリス役としてセリフで参加しています。

⑦曲目『タイム・アフター・タイム』のアレンジをギル・エヴァンスが担当しているとクレジットされています。

楽曲を聴く

これまでのいわゆる電化マイルスは、極端に少ないコード進行(またはコード一つだけ)の中、サウンドやポリリズムを多用したリズムに関してとても挑戦的で、先進的な音楽を作り上げてきました。

しかし本作あたりからは、非常にメロディアスな旋律を8ビートに乗せて進行するような展開もでてくるようになりました。景気のよい、バブル期サウンドと僕は勝手に名付けたくなるサウンドだと思います。

One Phone Call / Street Scenes (①) を聴く・・・

冒頭、鼻をすする音はコカインかなにかを吸入する音・・・パトカーの音・・・『ジャック・ジョンソン』からフューチャーされたギター・リフ・・・

警官とのセリフが入っている、4分半ほどの寸劇のスタイルをとった新しい楽曲です。

なんと警官役はあのスティングで、マイルスが薬物所持の被疑者役です。

マイルスは自伝の中でも、黒人である自分ががフェラーリに乗っているだけで警官に止められたことや、持ってもいない白い粉の薬物を車内に付着される思い込み(これも薬物からくるもの)に悩まされたりしていたことを語っています。

そんなシーンを1曲にしたというところです。

ちなみに、このスティングの参加・・・コロムビアはスティングに高額なギャランティを支払わなかったことが、この後マイルスがワーナー・ブラザースに移籍するきっかけの一つとなったようです・・・。

マイルスがスティングへのギャランティーを自腹で払ったようです。

会話の内容は全ては聞き取れないですし、フランス語も出てきますので難しいのですが、詳しくは『マイルス・デイヴィス大事典』小川隆夫さん著)に書かれています。

『1回だけの電話』のそのこころは、『ミランダ警告』というものからきています。

しょっぴかれる前に1回だけ誰かに電話がかけられる権利を伝えている会話の中からのタイトルです。

Human Nature(②) を聴く・・・

ご存じのマイケル・ジャクソンの名曲、『ヒューマン・ネイチャー』『スリラー』1982年より)をマイルスがカバーしたこの楽曲。

『スリラー』でも『ビート・イット』でも『ビリー・ジーン』でもなく『ヒューマン・ネイチャー』だったところが、なにかメッセージ性を感じますし、マイルスらしい選曲です。

マイルスのトランペットの音色は美しさ!

ジャズの帝王キング・オブ・ポップのカバーをしたと、当時も話題だったろうと想像します。

筆者<br>かなやま
筆者
かなやま

マイケルの『スリラー』は『史上最も売れたアルバムとされています。

マイケルがこの後にもシンディ・ローパーのヒット曲もカバーしています。

マイルスは当時のポップ・チューンも聴いており、幅広く新しい音楽に耳を傾けていたことがわかります。

MD1~Sometihing’s On Your Mind ~MD2(③)を聴く・・・

D・トレイン『サムスィングス・オン・ユア・マインド』をカバーして、その前後にMD1と2という小品をつなげてある楽曲です。

正直、この元曲はまったく知らない曲で聴き流しているだけでしたが、元ネタを聴くとかえって新鮮です。

Ms. Morrisine(④)を聴く・・・

タイトル『モリシーン夫人』は、この曲を作曲したロバート・アーヴィング(synth)の当時の妻なのだそうです。

この④曲目~⑥曲目だけ他の楽曲と別の日(1985年1月)に録音されていて、ジョン・マクラフリン(g)と12年ぶりの録音となります。

Katia Prelude(⑤)~Katia(⑥)を聴く・・・

『プレリュード』は『前奏曲』の意味ですので、この2曲はセットで。『カティア』は、前曲のレビューにも書きましたが久しぶりのスタジオ録音参加のジョン・マクラフリン(g)の妻であるカティア・ラベックから・・・皆さま愛妻家でらっしゃる・・・(その後離婚w)。

マイルスはもちろん、ジョンのソロが前面的にフューチャーされています。

Time After Time(⑦) を聴く・・・

名曲シンディ・ローパーのカバー『タイム・アフター・タイム』『シーズ・ソー・アンユージュアル』1983年収録、翌年シングル・カット)。

これも冒頭からマイルスのトランペットの音色が泣かせます。ザ・80年代サウンド・・・。この楽曲のみギル・エヴァンスのアレンジとクレジットされています。

You’re Under Arreast (⑧) を聴く・・・

アルバム・タイトル曲、僕の勝手につけた邦題は『タイホしちゃうぞ♡』w。

この曲は、ジョン・スコフィールドが作曲。小川隆夫さんがジョンにインタビューした際、①曲目『ワン・フォン・コール~』のタイトルを聞いたマイルスが、薬物所持の疑いで逮捕されるストーリーとセリフを追加録音することを提案したのだそうです。

Jean Pierre~You’re Under Arrest~Then There Were None(⑧)を聴く・・・

『ジャン・ピエール』のテーマからゆっくり始まるメドレー。壊れかけた何かを表現するような不規則なリズム。

『核爆発』『子どもの泣き声』『カウント・ダウン』・・・マイルスからのメッセージ・ソングです。

邦題は『そして誰もいなくなった』といったところ。

最後は『ロン、別のボタンを押させるつもりだったんだが・・・』鐘の音は核や戦争によって亡くなった人々へ捧げられているなど、『マイルス・ディヴィス自伝』の438ページでマイルスが解説してくれています。

この『ロン』というのは当時のアメリカ大統領、ロナルド・レーガンのことです。

全般をとおして・・・

80年代、バブル崩壊前の日本やアメリカでは多くの人々が幸せだったであろう時代に、景気良いサウンドを聴けるのは、僕には懐かしさを感じます。テレビやラジオから聴こえていた80年代のサウンド色。

マイルスが心身を削りながら編み出してきた当時の音楽って、実は70年代以降に生まれた僕には懐かしい音楽であることに気づきました。

そして、マイルスが『古くさい』と、『いつまでもそんな古い音楽をやっているんだ・・・』と半ば、貶したような音楽は、70年代以降に生まれた人には、僕を含めてとても新鮮で、刺激的だと気づきました。

最後に話は脱線します。

突然ですが、『ウィ・アー・ザ・ワールド 』が録音されたのが1985年1月28日だそうです。本作の録音日としては後半のものとなる③~⑤曲目の録音がほぼ同じ時期なんですね。

いえ、とくにアフリカの飢餓へのメッセージ・ソングと本作は関係ないのですが、マイケルシンディの曲が入っているし、最後の曲、“Then There Were None”が戦争や核へのメッセージ・ソングであるので、いろんな警告を音楽の巨匠たちは唱えていたようです。

あれ!?よ~く見ると『ウィ・アー・ザ・ワールド』にマイルス参加してませんか???・・・いえ、してませんwww。

人見知りのマイルスがこれだけのたくさんのアーティストと一堂に会するなんてありえなかったことでしょう・・・。

でもなんだかあの中にいたような気にさせる本作なんですよね・・・w。懐かしいサウンドで、僕は両親に守られ、なにも不安なんてない無邪気だった時代。今聴こえてくる音とは異色なものを感じます。

ただ時系列に聴いてくると、やっぱり新しいマイルスを感じる・・・いつもの不思議な感覚になります。

本作を聴き終わったら上記のリンク『ウィ・アー・ザ・ワールド』の動画を見て聴いてみてください。

ここにマイルスのミュート・トランペットが聴こえてきたら・・・と想像して聴くと、すごくおもしろいし、聴こえてくるような気がしますwww。

筆者<br>かなやま
筆者
かなやま

僕が小川隆夫さん著『マイルス・デイヴィス大事典』を発売から3ヵ月以上、使い倒したレビューはこちらです。

 

 

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