Decoy 概要
1983年 Columbia
コロムビア社の名プロデューサーのテオ・マセロが外れて、基本マイルスのセルフ・プロデュースとなる本作。短い、とても短く、あっというまの約40分です。マイルスだけでなく、ジョン・スコフィールド(elg)とロバート・アーヴィング(synth)の作曲もあったり、通常のドラムではなく、ドラム・マシーンを導入してみたり、新たな一面を垣間見えます。アル・フォスター(ds)はロック寄りになっていくマイルス・バンドからは離れつつある作品となります。
グラミー受賞 Decoy
『ウィ・ウォント・マイルス』(1981年)以来の本作はグラミーを受賞しました。このことについてマイルスは、『マイルス・ディヴィズ自伝』の中で『いくつかコンサートをやって、運良く<デコイ>がグラミー賞をとった』(343ページ)と言っています。
かなやま
『運よく』???
僕はこの『運良く』というちょっとした一言にザワッとしました。どんな名誉にも手放しで喜ばないことはそれまでのマイルスどうりですね。本作の受賞は運が良かったというのはそう労力がかかったわけではなく、ライブ録音を取り入れた曲もあったためでしょう。実力だけではなく、運もあっての受賞・・・。マイルス自身、そんなに本作については自信と納得はなかったのであろうと僕は勝手に推察します。
楽曲を聴く Decoy
今回も時系列に書くほうがしっくりきそうですので、そうさせていただきます。
Freaky Deaky(④) を聴く・・・
1983年6月30日にコロムビアのスタジオでの録音。マイルスの作曲。ビル・エヴァンス(ss)も参加してないですし、マイルスはシンセサイザーを弾いており、トランペットを吹いてはいません。前作『スター・ピープル』の録音からわずか4カ月ほどしか経過していません。非常に抽象的な1曲で、4分半ほどですので、実験的な楽曲であったと想像します。マイルスのシンセにゆっくり身をゆだねればよいのでしょう。この近辺の録音したスタジオには、かの中山康樹さんが立ち会えたと『マイルスを聴け!』で言っておられます。しかもギル・エヴァンス(arr)はソファーに寝そべっていたとか・・・w。
What It Is(⑤) を聴く・・・
1983年7月7日、マイルス・バンドがモントリオール・ジャズ・フェスティヴァル出演時の録音です。ゴリゴリ、ブリブリのベースに、ビル・エヴァンスのソプラノ・サックスが前面にフューチャーされています。マイルスとジョン・スコフィールドの共作。
That’s What Happend(⑦) を聴く・・・
⑤と同日の7月7日に録音。実は前作『スター・ピープル』の中の『スピーク』と題された楽曲と同じ曲。ややこしいし、言われなければ全然、気づかずに聴いてましたw。マイルスとジョン・スコフィールドの共作。
Decoy(①)を聴く・・・
ここから以下に書く楽曲は1983年9月にコロムビアのスタジオでの録音となります。すっかりソプラノ・サックスをばっちり演奏させてもらってるなあと思ったらビル・エヴァンスではなく、ブランフォード・マルサリスに交代しています。
Robot 415(②) を聴く・・・
この曲、こんなに短い曲だったのかと、聴きなおして思うのですが、僕にとっては、一番頭に残ってる楽曲です。癖のある1曲。本来は、ソリストたちが順番に登場する展開がこの曲の続きなのでしょうが、ストンと終了する1分ちょっとの楽曲です。リズム・マシーンが導入されていて、アル・フォスターのドラムスは入っていないことから、この時期の先端の機器を使用した実験をそのままリリースしたととっていいでしょう。マイルスとロバート・アーヴィングの共作。
Code M.D.(③) を聴く・・・
サウンドが古き、よき、80年代のサウンドですね。ロバート・アーヴィングの作曲。こんな曲が街やテレビからよく聴こえていたなあと思います。
That’s Right(⑥) を聴く・・・
この楽曲のみ、アレンジにギル・エヴァンスとクレジットされています。前述のとおり、中山康樹さんが言うにはギルはソファーに寝そべっていたらしいので、これ以外の楽曲にもアレンジャーとしては参加してそうです。マイルスとジョン・スコフィールドの共作。
全般をとおして・・・Decoy
前作に続いてライブ録音とスタジオ録音を寄せて集めた感のある本作ですが、ギターのマイク・スターンは薬物の関係でマイルスが本作から距離をとり、ジョン・スコフィールド1本となったり、ベースもダリル・ジョーンズにかわったり、テオ・マセロのプロデュースから離れ、ロバート・アーヴィングがマイルスとの関係を深めていたり・・・
ぼーっと聴いてたり、クレジットを見なければ、相変わらずのマイルスの『スクラップ&ビルド』には気づきにくいかもしれません。前作の『スター・ピープル』と比較して、ジャケットの写真のマイルスのハットと立てた襟がシブいので本作のほうに手は伸びる回数は多かったはずですが、2枚組が当たり前になってきたので40分1枚の本作はすごく短く感じられ、物足りなさを僕は感じてしまいます。
やっぱり、マイルスの体調が良くはないことから、一貫したアルバム制作ができなくて『寄せて集めた』ようなアルバムになってしまうのかな・・・と僕は想像します。
『スター・ピープル』と『デコイ』を実験期として、次作の『ユア・アンダー・アレスト』がキャッチーに振れるのが、時系列に聴いていくと単純に聴きやすく、好きだったりします。まだまだ、浅はかな僕です・・・。
かなやま
コメント